コリン・ブランストーン&ロッド・アージェント
at吉祥寺スターパインズ・カフェ(2001年1月31日)
 死ぬ前に一度は観てみたいミュージシャンというのが、誰だって一人はいるだろう。私の場合、それはザ・フーだったり、ザ・キンクスだったり、ポール・マッカートニーだったりする。そう、つまり60'sロックの偉人たちだ。そして、その中でも「死ぬ前に観たいミュージシャン、心のランキング第一位」に燦然と輝いているのは、何を隠そう、ザ・ゾンビーズなのだ。少し渋い?いやいや、そんなことはない。彼らは「タイム・オブ・ザ・シーズン」というシングルを100万枚以上も売った、れっきとしたビック・ネームなのである。

 で、その彼らが来日する。いや、正確には彼らが来るのではない。でも、《彼ら》は来る。指示代名詞ばかりでわかりづらいか? 来日を待ち焦がれていた人なら、これだけでわかるはずだ。でも、待ち焦がれていなかった人のために言うと、つまりはこういうこと。ゾンビーズというバンドは来ない(解散しているから当然と言えば当然)。しかし、その中心人物であるコリン・ブランストーン(vo)とロッド・アージェント(key)の二人がデュオとして来日するのだ。会場はもちろん東京ドーム!ではなくて、整理番号が200番くらいまでしかないと思われる吉祥寺のスターパインズ・カフェ。おいおい、そりゃどういうことだ? やはりゾンビーズは私が考えているより渋いのか? 地味渋なのか?

 こじんまりとした会場は、一番後ろでも東京ドームの最前列よりステージに近い。物販では二人の直筆サイン入りポラを山のように売っているのが泣かせる。一枚、500円。あの二人がトウキョウのホテルでせっせと自分の写真にサインを書いていたと思うとなあ...。サインはとんでもないスピードで売れていくが(もちろん私も買った)、テーブルの上の分がなくなると、後ろのダンボール箱からすかさず補充される。また売れる、また補充。尽きることなく出てくるサイン入りポラロイド。一体何枚書いたんだよ。でも、サインを手にしたファンたちはやはり喜びを隠しきれない様子。私もニヤニヤが止まらない。ゾンビーズ時代を含めて、まだ一度も来日したことのない彼ら。これは長い間待ってくれた人たちへのファン・サービスでしょう。小遣い稼ぎ、なんて余計な詮索をしてはいけない。

 会場には、私みたいな若僧はやはり少なくて、60年代のロックをリアル・タイムで聴いていました、といった感じのオジさんたちが大半を占めている。積年の恨みを晴らすかのようにステージに向けられている期待の視線。なにせ初来日、期待するなという方がおかしい。しかし、それはコリンとロッドの二人もよくわかっていたようだ。ライブの選曲はゾンビーズ時代の曲はもちろん、アージェントの曲、コリンのソロ曲、そして二人の最新アルバム『アウト・オブ・ザ・シャドウズ』まで、二人のキャリアを全てカバーした完璧なもの。そして、演奏は、これでもかっ、というくらい気合の入ったロック。そう、ロック。ゾンビーズにロック的なダイナミズムを求めるのはお門違いな気もするが、今回のライブ・メンバーは、ベースに元アージェント、キンクスのジム・ロッドフォード、ギターにマーサ・リーブス&バンデラズのツアーやジェフ・ベックのアルバムに参加した経験があるマーク・ジョンズ、そして、ドラムにはジムの息子、スティ―ヴ・ロッドフォードを迎えた、最強の布陣なのだ。なんて豪華なメンバー、正にロックンロール・サーカス!このメンバーでロックするなという方がおかしい。

 記念すべきライブ・イン・ジャパンの一曲目はコリンのソロ曲、"アンドラ"。スタジオ盤では繊細な雰囲気漂うこの曲も、バンドはハイテンション&ハイテンポで演奏し、コリンは大股開きの仁王立ちで歌う。原曲の雰囲気お構いなし。前半早々に披露されたゾンビーズの代表曲、"タイム・オブ・ザ・シーズン"では、「ンッ、アッ〜」 という溜め息パートにまで気合が入っていたご様子。溜め息に気合が入るというのがよくわからないが、それくらい一生懸命ライブをやってもらえると、観ているこちら側としてはもちろん嬉しい。でも、何より嬉しかったのは、頭が禿げあがろうと、ゾンビーズ時代と全く変わりなかったコリンのヴェルヴェット・ボイス。私はこれを聴きにきたのだ、と言っても過言ではない、それくらい素晴らしい声。"ア・ローズ・フォー・エミリー"が、"ディス・ウィル・ビー・アワ・イヤー"が、あの声でもって目の前で歌われていく。これ以上の幸せがあるだろうか... なんて心酔していると、今度はロッドがアージェント時代の曲を歌いまくり、弾きまくる。70'フレイバー全開のロックンロールが新鮮で気持ちいい。ロッドの素直なボーカルも、コリンとはまた別の味わいでいい感じだ。

 そして、ライブのクライマックスは、ラストのゾンビーズ四連発! まずは、"ケア・ オブ・セル44"でゾンビーズの持ち味の一つである美しいコーラス・ワークを堪能し、「みんなこの曲は知らないだろうけど。」とロッドが紹介していた(知ってるよ!)"インディケイション"で再びロックンロールな気分になる。そして、"テル・ハー・ノー"の変拍子に心を奪われつつ、最後はデビュー曲、"シーズ・ノット・ゼア"でゾンビーズ・マジックの原点を再確認。60年代の曲らしく二分そこそこで終わるこの曲は、ビシッと決まってライブの締めとしては最高だった。一瞬、このまま綺麗に終わってもいいかな、という考えが頭をよぎる。でも、素晴らしいライブに対する礼儀としてアンコールをしていると、一分もしないうちにバンドは再びステージに戻ってきた。じらさない、待たせない。素晴らしいライブにそんな小細工は必要なし、といったところか。そして、注目のアンコール曲はアージェントの"ゴッド・ゲイブ・ロックンロール・トゥ・ユー"。クイーンばりのロック・オペラを聴かせるこの曲は、感動的なフィナーレにぴったりだった。

 神がロックンロールを君に与えた、か。そうなのかな、よくわからない。でも、これだけは言える。今日の"ゴッド"は間違いなく、コリン、ロッド、あなたたち二人だった。

report by dak.


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