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この日、トム・ヨークが口を開くことはなかった。 口を開かなかったといっても、一言も観客に向かって話さなかったわけではない。今までに20以上のRadioheadのコンサートを見てきた。今日が初めて日本で見るRadiohead。しかし、何かが違う。以前にもドイツであまりの観客の盛り上がりのなさに、突然トム・ヨークはステージを降り、入り口のドアから自分のメンバーの演奏する姿を腕を組んで眺めている事もあった。別のドイツのフェスティバルでは、ヘビー・ロック好きの多いドイツ人に挑戦するかのように、暗い曲ばかりのセットでその日のフェスティバルのトリを勤めたこともあった。 しかし、どんな時でもトム・ヨークは楽しいなら楽しい、うれしいならうれしい、怒っているなら怒っていると、常に観客に対してその時の気持ちをストレートにぶつけてきた。 でも、今日に限っては何かがいつもとは違う。 それに気づいたのがこの日の4曲目に演奏された「My Iron Lung」。大歓声とともにお馴染みの前奏で始まり、怒りが頂点に達したかのように爆発するサビに向けて、いつもなら曲が進むにつれて徐々にテンションが上がっていく。しかし、この日はちょっと遠目のスタンド席から彼らの姿を見ていると、どうもRadioheadはまるで別の惑星に機材を持ち込み、そこから僕たちのいる大阪に向けて演奏をしている... そんな感覚に陥ってしまった。そう、目の前にメンバーがいるはずなのに、どうしてかその場所にはいないような気がした。 7曲目の「Optimistic」も以前見たライブとは全く違う曲のような印象を受けた。まるで重苦しい戦車がズンズンと近づいてくるような、もしくはどこかへ向かっていくような。この戦車はどこへ向かって行くんだろう。 今日のRadioheadの演奏の完成度は非常に高い。トムのボーカルはほとんど音をはずす事はなかった。でも何かが足りない。いつもは誰のパートがずれようと、いくらトムのボーカルが音をはずしていようと、バンド全体から心に強く伝わってくる音でも言葉でもないものがあった。でも今日のメンバーは淡々と一曲一曲をこなしていくだけのように感じる。トムの心も別の場所にあるように感じた。 本編の最後の曲はいつものように、「Everything In It's Right Place」で、まずトムがジョニーの持つサンプラーに自分の声を入れるために一言二言マイクに向かって話しかける。しかし、今日はREMの有名な曲を歌っていた。「It's the end of the world as we know it. I feel fine!」この世の終わりと歌っていた。 そしてアンコールに入り、3曲目は「You And Whose Army」。客に背を向けてピアノに座り、ステージ脇に設置された二つのスクリーンに映すためにトムのマイクには小型カメラが設置されている。そのカメラに向かって何かを指差しながら歌っていたこの曲。これはもともとイギリスのブレア首相を非難した曲。でも9月11日にRadioheadがベルリンで演奏したときには、アメリカのブッシュ大統領に捧げると言って「彼が第3次世界大戦を始めないことを祈っているよ。」とトムは言っていた。 アメリカのTime誌は先週号でRadioheadを地球上で最も重要なバンドの一つに挙げていた。この日の最後に演奏されたのは「How To Disappear」。この曲の一番盛り上がる部分のトム・ヨークの悲痛の叫びは今のアメリカの心にちゃんと届いているのだろうか。 --- setlist ---
1. National Anthem --- Encore ---
18.Like Spinning Plates
22.Fake Plastic Trees Reported by Yohei Nogai. 無断転載を禁じます。The copyright of the text belongs to Yohei Nogami. They may not be reproduced in any form whatsoever. To The Top. |