アメリカは「Imagine」を怖れている。(2001年9月26日)
 アメリカの政府は今、人々が「Imagine/想像する」ことを怖れている。テロ事件でジョン・レノンの「Imagine」が放送自粛措置になったのは、明らかにその現れである。権力が弾圧したりしてあるものを潰そうとするのは、権力がそれを怖れているからだ。もし「Imagine」が権力の圧力によって放送自粛の対象になったのなら「Imagine」の持つメッセージに影響力があると認めたことに他ならない。

 ...と、考えてからもう一回放送自粛リストを見ると、どうも何かおかしい。大体「世界最大のラジオネットワーク」って、全米のラジオ局の何%を占めているの? 放送自粛リストに違反するとどういう罰則規定があるの? 例えばモンタナ州のラジオ局がうっかりSimon & Garfunkelの「Bridge Over Troubled Water」をかけたとき誰が報告して誰が責任取るの? アメリカの政府はこの放送自粛措置に関わっているのだろうか?

 そもそも、このリストを作成した人は何を考えているのだろう? このリストに載るアーティストはほとんどアメリカのアーティストで、アメリカ人以外のアーティストはハードロック系を中心にいかにもアメリカでも人気のあるアーティストばかり。例えば「FIRE」という単語がダメならブライアン・イーノの「Baby's on fire」も対象に入るんじゃないかと思うのだけど、イギリス人アーティストの曲をアメリカ人は知らないの? スタイル・カウンシルには「Dropping Bombs On The White House」なんていう曲もあるぞ。それから黒人のアーティスト、特にヒップホップ系はほとんど無し(ビースティボーイズは自粛の対象になっているけど、ビースティは白人だし)。黒人のヒップホップはこのラジオネットワークでは日頃から放送自粛?

 まだまだある、Bob Dylanの「Knockin' On Heaven's Door」を自粛したついでに、ご丁寧にGuns N' RosesのカヴァーヴァージョンがダメならPaul McCartney &Wingsの「Live And Let Die」(自粛対象曲)をカヴァーしたガンズ・アンド・ローゼスのヴァージョンも対象じゃないの? 同じアルバム(一応)に入っているのに。Carole Kingの「I Feel The Earth Move」なんて恋をしてドキドキする気持ちを大げさに表現したものなのにこれもダメ。だったら大地震が起きたら地震の被害者の心の傷を考慮してちゃんと放送自粛しろよな。

 また、テロの犯人が事件前に飛行訓練を受けていたことから連想される(解釈間違っていたらスイマセン)Foo Fightersの「Learn To Fly」がダメならピンク・フロイドの87年のシングル曲(アメリカでもそこそこヒットしたはず)「Learning To Fly」もダメじゃないの? とか。それからBanglesの「Walk Like An Egyptian」やVan Halenの「Jump」が自粛対象なんて噴飯モノ。こんなお気楽なヒット曲がダメなんておかしいとしか思えない。特にバングルスの「Walk Like An Egyptian」なんて犯人はエジプト人と決まったわけでもないし、この曲が対象になるのはそれ以外の理由があるとは思えない。テロ実行犯がアラブ人(と決まったわけでもないけど)ならエジプト人も同じと考える発想は偏見と言うしかない。

 さらにFrank Sinatraの「New York, New York」。この曲はヤンキースの試合が終わった時に「ニューヨーク万歳! 最高!」というニュアンスで流れる曲で、今こそこういう曲がニューヨークの人たちには必要なんじゃないのだろうか? このように検証していくと、浮かび上がってくるのはリスト作成者のマヌケぶりだ。あまりにも抜けが多いし、偏見の塊だったりする。そのうえRage Against The Machineは全曲自粛なんていう杜撰な網のかけ方をする。これでは戦時中の日本が英語を「敵性語」として話すのを禁止して(これも自粛して、なのかな?)、例えば野球の「ストライク」を「よし」とか「ボール」を「ダメ」とか言い換えるオカシサをリスト作成者は笑えるだろうか?

 そう考えると、こんなマヌケな人の手によってジョン・レノンの「Imagine」が放送自粛になったところで弾圧されたとか、そう受け取るのはちょっと違うような気がする。先にも書いた通り、このラジオ局は全米のシェアはどれくらいなのか分からないし、自粛措置に反した時の罰則規定もよく分からない。ただ、言えるのはアメリカのある人たちはジョン・レノンやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの影響力を怖れている。それは彼らのメッセージに力があることの証明に他ならない。大切なのは放送自粛がすなわち弾圧とかというふうに捉えるのではなく、自粛リストを作った人たちについて「Imagine/想像する」してみること。そして相手の姿をしっかりと見てみること。虚脱感を感じている場合じゃない。

Reported by Nobuyuki Ikeda.


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