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徐々に近づきつつある台風の影響で、午後になって光の色が濃さを増していくにつれ、南港オープンエアを吹き抜ける風が半端じゃなく強まっていく。時折突風が襲いかかりテントや看板を手あたり次第なぎ倒して、前のRANCHIDですでに大荒れになっていた会場は、空中に舞い上がる砂埃とともに、独特の緊張感をもった雰囲気に包まれる。 台風が近づくときの、あのわけのわからない高揚と、そしてこれから目撃する、進化し続けるモンスター・バンドの登場を心待ちにする興奮が一緒くたになって、みんなそんなカタルシスをどこかで感じているのが伝わってきて、バックステージから見渡しただけで、この2日間で最高の観衆が場内を埋め尽くしている。 夕景がきれいだ。遠くに天保山の、グリーンと赤にライトアップされた大観覧車が見えるし。すでに朝から空は深い秋の色をしていて、会場周辺の銀杏の葉も黄色く色づきはじめて。砂埃はずっと、山の頂上で見る雲のように頭上を流れていて、それが照明に照らし出されて。 PRIMAL SCREAMが登場したのはちょうどそんなときだ。まず最初にマニが相変わらずのガニ股ぶりで姿を現し、相変わらずの気のいいあんちゃんぶりでスタッフに声をかけている。しばらくしてメンバー全員がステージ下手の袖に上がってきた。そこには勿論ケヴィン・シールズもいる。缶ビール片手に、ほんとに物静かな巨漢の理系学生といった感じ。丸眼鏡なんかか掛けてるし、変わったよなあ。 そして、そのいちばん最後がボビー‥‥(すんません、この瞬間のためだけにバックステージにいてました。いや、仕事で行ってたんですけど)。相変わらず、心此処に非ずといった感じで、どこを見つめるわけでもなくヌボ〜、フラ〜っと、居場所を定めず漂っている。と、そこに颯爽とBECKが登場。ボビーに歩み寄り握手を求める。そのときだけ我に帰ったボビー、やっとまともな表情で一言二言挨拶を交わしたあと、またヌボ〜っと立ち尽くす。ほんま、こんなときなに考えてんのやろ? ヴィジョンにVTRが流れ、メンバーが次々に、さあ仕事や!って感じでステージに出ていっても、やっぱりボビーはフラ〜っと歩いていった。それはマイクスタンドの前に立っても同じ。マイクの角度をほぼ垂直に調節しただけで、それがいつもどおりの姿なんやけど、だから去年の2月のZEPP OSAKAで、拳を突き上げて、すこぶる御機嫌な様子で出てきたボビーが不思議でしかたがない。あれか、サングラスしてたら人格変わるんかな? ちなみにBECKはバックバンドのメンバーと一緒に、そのまま途中まで、袖の最前列でPRIMALのステージを見ていた。 オーディエンスの歓声がもの凄い。とくに女の子の「ボビーィィィッ!」って黄色い声が。ドラマーの、恒例挨拶代わりのキックの連打の煽りのあと、SEが流れ、そこに重たい8ビートがかぶり、イネスのギターが、そして今のPRIMALの音にはなくてはならないマニのベースが乗っかり、1曲目は"Doresden"。オープニング・チューンとしては抜群にかっこいい。そして瞳の焦点を定めないまま、胸の奥から絞るように出されるボビーの歌声。そこに立ち、歌って初めて唯一無二のロック・イコンとして存在感を見せるのだから、不思議だ、この人。 2曲目、3曲目が終わったところで、モニター・ミキサーのところになにか言いにいく。とくにKey.のマーティン・ダフィがPAには苦労していたみたいで、演奏中にも、上げろとか下げろとか手振りで指示を出していて、サンプラーのラックにいたテックが、結局は最後のほうまでステージ上を右往左往していた。そんななかマニはやっぱり奔放にプレイしていて、すっかり流暢になった日本語で「コンバンワ、ニッポン!」とか言って、ボビーのマイクでMCをするのに角度を倒すもんやから、そのときは一歩後ろに下がっているボビーが、マニが喋り終わると無言でいちいちマイクの角度を垂直に立て直す。ステージがそんなに広くないから、そんな様子もつぶさに見れて面白い。 セットリストを見ればわかるように、演奏も『Xterminator』のテンションを『Vanising Point』の重厚なサウンドで強化したような、最近の流れに沿ったショウを見せてくれて、今日の"Pills"のビートの乗り方とかその典型やし、このまま新作もこの延長線上でいくのかなあ、と想像したりしてたら、"Long Life"の、漂流するようなダビーで美しい音色が聞こえてくる。なにと対話してるのかはわからんけど、しゃがみ込んで、切々と歌い上げるボビーの艶やかな声は、バラード・ナンバーだとよりいっそう魅力を増す。観衆もそんな音と歌声を堪能している。と、曲が終わってマニが一言。「So fuckin' blind, wake up!」 相変わらず。で、また無言でマイクの角度を直すボビーも、相変わらず。 セットの中盤、"MBV Arkestra"でいったん袖に早足で引っ込むボビー。バックステージで見ていた全員が慌てて道を開けるも、まったく目に入ってない様子。ケヴィンを中心に、ジャジーとも言えるような美しくて圧倒的なアンサンブルを演奏している間、ミネラルウォーターのペットボトル片手に、だれもいない下手のいちばん奥のラックケースに腰掛けて、例のヌボ〜・アトモスフィアを漂わせている。やべぇっ、目合った。慌ててステージに視線を戻す。そこには、ヴォーカリストの姿がなくても最高のバンドがいる。ホント。 だからか、引っ込んできたときにはみんな焦って道を開けたのに、曲が終わってステージに戻るボビーを、だれひとり気づかなかった。気配すら感じさせずにバックステージの人垣をすり抜けたみたい。アッ、と思ったら、さっきからそこにいたかのように、当然のようにマイクスタンドの前に立っていた。 そして、鳴らされたのは"Rocks"のリズム‥‥。ロック・イコンがいちばん輝いて見える瞬間。 すっかり髪が伸びて、茶系のタイトなシャツにパンツ、足下は真っ白なスニーカー。そんないでたちは、ぼくがPRIMAL SCREAMを知った頃の彼を切り抜いたような気さえする。初めて聴いたのは中3のとき、『Screamaderica』発売前の"Loaded"だったっけ。ちょうどSTONE ROSESが1stアルバムをドロップした頃。HAPPY MONDAYSがチャートを席巻していた頃。噂だけは聞こえてくるMY BLOODY VALENTINEの次のアルバムを心待ちにしていた頃。FM 802のリクエスト・プログラムで、たった一度だけ"Higher Than The Sun"がかかったときのことを覚えている。アンビエントやアシッドといった言葉に思いを馳せた頃。 アメ村の雑居ビルの一画のショップで、"Ivy Ivy Ivy"やINSPIRAL CARPETSのmoo!! Tシャツ、マイブラやTEENAGE FUNCLUBのブートのライヴテープを買い、『inforock』というフリーペーパーを毎号欠かさず読んでいた。小、中と続けていたサッカーを辞めて高校では美術部だったぼくが、学校の地下にあるひんやりとしたコンクリートでできた部室で、技法なんか無視して白いカンバスに青と赤の絵の具だけで描き殴ったときのBGMは、いつもマイブラやLUSH、RIDE、SLOWDIVE、そして『Screamaderica』だった。 『Give Out But Don't Give Up』に失望したのとは裏腹にバンドはどんどんビッグになった。今度は802でもヘヴィ・ローテーションでプレイされていた。ブリット・ポップ・バブルまっただなかで、ぼくはインディロックよりもアッシドジャズという新しいムーヴメントにのめり込んで、クラブ通いとレコード漁りを続けた。それでも、大学生になり、別れた彼女に最後まで自分の思いを伝えられなかった夏に、口ずさんでいたのは"I'm Loosing More Than I'll Ever Have"だった。 なかなか自分の半生と重ね合わせることのできるバンドって、そうはないと思う。とくにぼくらの世代は。大人になれば新たな価値観に出会うものだし、流行の消費速度は半端じゃない。それ以前にたいていのバンドは解散してる。だから今のPRIMALのステージを見れば、そこにはSTONE ROSESとMY BLOODY VALENTINEのメンバーがいて、挫折も希望もあって、そういうものをすべて呑み込んで、力強い音を鳴らしている。 それはラスト2曲の、"Accelerator"〜"Kick Out The Jams"の怒濤の展開をまのあたりにしたときに、つくづく感じたことだった。「ロック」がここまでポジティヴで、ゾクゾクするほど魅力的で、有無を言わさないほど説得力があって、いろんな余計なものを吹き飛ばしてくれて、なによりも楽しい。そしてなによりもそれが、これほどの観衆の前で鳴らされている。ふだんは邦楽しか聴かない人間もバンドの名前は知っている。まぎれもない、PRIMAL SCREAMというバンドの今の姿。イネスが、ヤングが、ダフィが、そしてボビーが、水を得た魚のようにステージで情熱をぶつけている。 「ハイエナジーなロックンロールへの愛で大きくなったんだ」 イギリスのなにかの雑誌に語っていたボビーの言葉を思い出す。そんななかで、ボビーがいるから、どこか儚くて、不安定な佇まいをみせるヴォーカリストがいたからこそ、共感を覚えるのかな? って、そんな感慨に耽るまでもなく、ぼくは飛び跳ねてました、ハイ。個人的なことだけど、今年の夏はFUJIROCKそしてSUMMER SONICと、ふだんとはまた違う形で体験できて、とても幸福な夏だった。ホント、いいんかなあって思うくらいに。 そうそう、ロックへの情熱を、おそらく完全燃焼してきたメンバーがステージを去るときも、ボビーは相変わらずヌボ〜っと、何事もなかったように帰っていった。あと、いつかはアコースティック・セットのPRIMALを見てみたいなあ。"Damaged"や"I'm Loosing 〜"や"Everybody Needs Somebody"を、そういう形で聴いてみたいと思うのは、ぼくだけかな? ♪ SET LIST
01. Doresden Reported by 児玉憲太郎. 無断転載を禁じます。The copyright of the text belongs to 児玉憲太郎. They may not be reproduced in any form whatsoever. To The Top. |