マン・オン・ザ・ムーン(映画)
 先週、仕事で『マン・オン・ザ・ムーン』の試写を見る機会あったんですが、まあ、タイトルにもなってる主題歌がR.E.Mで、しかもコートニー・ラヴが出演してるってことで、そっちの側面から注目してるひとも多いと思うので、コメントしとこうかな、と。

 ストーリーは、60年代から70年代にかけて活躍(?)した早出のスタンダップ・コメディアン、アンディ・カフマンの、わずか35歳で肺がんで亡くなるまでの半生で、彼の役をジム・キャリーが演じてます。ジム・キャリーにしてはキャリアの転機となるような、(コメディアンの役とはいえ)ふだんとは違うシリアスな役柄で、ペット探偵や軟体黄緑仮面や子持ち弁護士のときのような強烈なアクの強さは、そのままアンディ・カフマンという実在の希有なキャラクターの、独特の存在感として転位していて、最初はちょっとジム・キャリー臭を懸念していたけど、映画冒頭の実際のモノクロ映像の挿入もあり、最後までまったく違和感はなかったな。たぶんそういう意味でのゴールデン・グローブ賞なんでしょう。

 でも、いかんせんアメリカン・ジョーク、ぼくは中盤以降ちょっと飽きてきました。やっぱりメンタリティの違いはいかんともしがたく、「……?」ってシーンが結構あった。それもアンディ・カフマンがどういったステージを、どういったショウを見せてきたかがダイジェスト的につながれ、その合間合間に葛藤なり恋愛なり没落なりが挿入されるという描かれ方で、宣伝文句の「どれが本当のアンディなのか、まわりの友人も、ついにはアンディ自身もわからなくなる」人格分裂的な悲哀と孤独を漂わすには、ちょっと浅すぎたかも。たぶん、ぼくのようにこの映画で初めてアンディ・カフマンに触れるひとに対する配慮もあって、このような作りになったんやろうなってことは想像できるけど、1時間59分に二つを両立させるのは、やっぱり難しいんやろうなあ。

 で、その理解不能の彼の芸歴について、映画を見終わってからとくに思ったのが、始めの頃の社会的弱者ともとれかねない小心者の整備士のキャラにしろ、高慢チキで観客を侮辱するほど徹底的にいじるトニーというキャラにしろ、素人の女性をメタメタにする世界無性別級プロレス・チャンピョンにしろ、すべてが用意周到にサクラを使って仕組まれた、タチの悪い万華鏡のようなパロディ。とくに彼の人生の後半では、同時代のアメリカ人ですら理解に苦しんでたみたい。で、観衆から自分の芸を理解されずにさらに苦しむアンディ、みたいな…。

 アンディ・カフマンがステージでなにを求めていたのか? 劇中に出てくる「喜びでも、憎しみでもいい。人々の心を揺さぶりたい」という彼の台詞と、だんだんとヨガや心霊療法に傾倒していったことから推し量ると、それは笑いでも皮肉でも社会的弱者への差別に対する告発でもなく、現実から離れたハイな境地を、観衆の喝采と罵声を全身全霊で浴びることで見い出したからじゃなかろうか、という気がした。偽悪者というパロディを媒体にして。

 いちばん印象に残ったのはラストの葬儀のシーン、参列者が互いに肩を組み、柩の背後のスクリーンに映るアンディとコール&レスポンスで歌う場面と、その後の、ナイトクラブでトニーがグロリア・ゲイナーの"I Will Survive"を熱唱するシーン。なんだか初めて暖かな雰囲気に包まれた場面やった。挿入歌が場面を代弁する好例は、『フォー・ザ・ボーイズ』の、戦地慰問に生涯を捧げた人気歌手役のベッド・ミドラーが、訪れたベトナムの前線基地で兵士を前にして「立ち去る者もいれば、ここに留まる者もいる」と"In My Life"を歌うシーンがあるけど、これもなかなかやった。そしてエンドロールで流れてくる、プレスリー調のベースラインとスティール・ギターのイントロの"Man On The Moon"は、ちょっと『レオン』の"Shape Of My Heart"を思い起こすくらいにハマッてたな。"Automatic For The People"のときのR.E.Mは、個人的には"Green" "Out Of Time"と続く、バンドとしてもシーンの盛り上がりとしても、絶頂期のいちばんピークだったと思う。マイケル・スタイプがまだ胡散臭くなく、ちょっと格好よかったもん。

 で、この頃R.E.MとともにCMJを賑わしていたのが、BEASTIE BOYS、SONIC YOUTH、 SMASHING PUNPKINS etc…といった、今や超々ビッグ・ネームたち。彼らは当時、カレッジ・チャートやインディ・チャートでしかお目にかかれない存在やった。それが「ブリトニーとかと対抗していくのは難しいんだよね…」ってスマパン解散。なんか皮肉でねえ…。言葉もない。R.E.Mもいいかげんヤバそう…。

 ちなみにタイトルの『マン・オン・ザ・ムーン』には、浮き世離れしている人、架空の人物、舞台でピンスポット・ライトを浴びたときにできる影に見立てて、という意味があるそうです。マイケル・スタイプがアンディ・カフマンのファンで、この曲を作ったらしい。そうそう、コートニー・ラヴは恋人役でいい味出してたけど、なんかメリル・ストリープ似の田舎娘って感じやったな。断然ビョークの勝ちか。

Reported by 児玉憲太郎.


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