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連載リレー・コラム - 第7回
これを聞かずに、死ねるか!
誰にだってあるだろう、宝物のような歌やアルバム。 そんな歌やアルバムのことを話してみよう。
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hanasanが突如として始めた連載リレーコラム「これを聞かずに死ねるか!」のバトンがずいぶん前に回ってきていたなぁ、と思い出したのがついさっき。今回のコラムはみんなが続けてきた(…のか?)やつとは、少々おもむきが異なっているのは重々承知で、それでもこの企画だかなんだかに乗っかる理由はひとつ「これを聞かずに死ねるか!」の殺し文句に引っぱられて湧いてきやがったコンチクショーなアルバムがいつまでも頭から離れないからだ。「死」から繋がるアルバムとは、絶命する際のしぶとさといったらそらもう天下一品な役者達が発表した最初で最後の音源であり、その名もズバリ『ピラニア軍団』というから強烈さ!
「湯浅学氏が飛びつきそう」と思ったごく少数の幻の名盤解放同盟賛同者の人、ご名答。梅宮辰夫の"ダイナマイト・ロック"を掘り起こした御大は、早くからエンドロールに名を連ねた辰兄ぃの対極にあるピラニア達にも造詣が深く、本作にももちろん寄稿している。「そもそもピラニア軍団って何っ?」と思った人は、今すぐにレンタルビデオで深作欣次監督の『仁義なき戦い』シリーズ五作品を借りて一気に呑みこんだほうがいい。さすれば、鼓膜にただ振動を与えるよりもなお強い衝撃となって、からだ全体が震えるはずだ。さぁさぁ、再生ボタンをピッ! とな。
〜揺れる画面、怒号、破壊音、悲鳴、血飛沫、危ない映像多数〜
クレイジーな役者の中で主役以上に危ない眼をした、濃ゆーい男達がいましたね? 彼らは画面の真ん中ではなく隅っこで壮絶なアレ(←見ればわかるから)やらなにやらをしましたね? そんな、ピラニア達の生き様が、ものの見事にこの一枚に収まっているのだ。見てこのアルバムを聞くと笑けてくるし泣けてくる。もっとも、オススメは2005年の東京ファンタスティック映画祭でオールナイト上映された中島貞夫監督の『狂った野獣』('76)というレンタルビデオ屋で探しても見つからない映画がおもしろい。あくまで噂に過ぎないんだが、ハリウッド映画『スピード』の原型となったらしい、と聞いたことがある。渡瀬恒彦演じる強盗がバスに乗り…(略)…川谷拓三、片桐竜二、志賀勝、室田日出男などなどピラニア軍団がどっさりもっさり出演してて全員がどこかコミカル…ってレコードからずいぶんと話がそれたけれども、とにかく良いのだ。
さて、いいかげんアルバムに向きなおってみよう。まず曲名とクレジットを並べてみることで、その独特な世界を掴んでいただきたい。それに、妙なタイトルの数々はこんな時にしか打ち込む機会はないのですよ。
『ピラニア軍団』
ピラニア村歌〜わしゃ知らん節/ピラニア軍団
はぐれピラニア/岩尾正隆
菜の花モダン/橘麻紀(応援団)
死んだかナ/根岸一生
やめましょう/司祐介
役者稼業/志賀勝
その他大勢の仁義を抱いて/志茂山高也
ありがとうございます/室田日出男
ソレカラドシタイブシ/小林稔侍,白井孝志,寺内文夫,広瀬義宣,高月忠,片桐竜次,渡瀬恒彦
悪いと思っています。/松本泰郎
俺(れーお)/成瀬正
だよね/川谷拓三
関さん/野口貴史
冒頭を飾るのはピラニア軍団というクレジットが誇らしい"ピラニア村歌〜わしゃ知らん節"。ムーディーなギターとキーボードの絡みにわっさと覆い被さる野太い「酒を呑みたさに命をか〜け〜て〜」の大合唱がいきなり腰を砕けさせ、サビの終わりも「酒を呑んだら、わ〜しゃ知〜らん〜」で締めるという無茶苦茶な曲だ。ひねりも何もあったもんじゃないけれど、役者のはみ出し者にはそれが似合っているし、無頼漢どもが一体何を拠りどころにして体を張った演技を繰り広げていたかを、簡潔に教えてくれる。ピラニア軍団結成のきっかけが実はただの「呑み」だった、というのも頷けるのだ。刑事ドラマのBGMがさらに壮大になったような"はぐれピラニア"は、凄みを利かせて歌ってはいるが、リズムに乗り遅れたりと決して格好よくはない。だけれど、酒で緊張を解きほぐし、精一杯がなっていると思うと俄然楽しくなるはずだ。"やめましょう"は、ピラニアの人間味を引き出すことに成功しているし、現在はVシネマなどで大活躍している志賀勝の"役者稼業"でも、人を泣かせ、犠牲の上で生きていることがテーマとなっている。まぁしかし、よくもまぁこんなに自分を責め続けることができるもんだ。スクリーン上の自分を冷静に見つめ、映画作品と日常の境目を見失った歌詞が止めどなく溢れている"その他大勢の仁義を抱いて"にいたっては「やだよ〜ぅ」と弱々しく哭き、室田日出男の"有難うございます"は、タイトル通りの台詞「有難うございます」から歌唱へと流れ、再度台詞で現実を刻み込むせいか、切なさも倍増するのである。極めつけは"悪いと思っています。"で、読点の「。」を打たれたら、一方的に謝りっ放しで話が終わってしまう。なんだかなぁ。
驚きづくしの"死んだかナ"は突然降ってくる「ウッ」だの「あぁッ!」、さらに「ギャアァ」といった悲鳴があっさりとバンド側の技巧など吹き飛ばし、そのあとは「死〜んだ死んだ死んだ、たしかに死んだかナ」のフレーズがフェイドイン。その後も九割がたコレの繰り返し(!)で、まるで呪詛のようだ。当然、初めて聞いた時は唖然となったが、聞きこめば、バンドが持てるテクニックのぶつかり合いも十分に楽しめ、まんまと奈落へと落とすのだ。
暗いばかりではなく、ピラニア達にみあった変化球もちゃあんと用意しているから、このアルバムはますます楽しい。"ソレカラドシタイブシ"なんて完全に脇役(ピラニア)対主役(渡瀬恒彦)の図式が成り立っていて、ピラニアが吠えれば渡瀬が辛辣なツッコミを躊躇無く吐くのだ。例えば「冷やっこいドーラン、ツラにぬりゃ、うーん俺まだ二枚目いけるなぁ」と冷や飯を喰っていた頃の小林稔侍が歌えば、渡瀬が「冗談やめときな」とピシャリ。それでも、ならず者のために時間を割いてアルバムに参加していることを思えば、ついつい憎まれ口を叩きたくなるほど気に入っていることの裏返しなのだ。加えて、応援団の役割を与えられた橋麻紀が歌う"菜の花モダン"は艶っぽく、アルバムの中で唯一清々しさがある。男の中に女がひとりが「紅一点」という言葉というのは周知の通りだけど、ことこのアルバムに関しては、普段使われる意味だけに収まらず、読んでそのままの効果が生まれている。モノクロに生きるピラニアのアルバムからするりと抜け出し、色を得ている気がするからだ。
俺と書いて(れーお)では、その曲名だけで変な唾が湧き何杯でも飯が喰えそうだけれど、日本語がすんなりと入ってこない外国の人ならば、ラテンダンスのステップを踏んでしまいそうな作り込みだ。「"だよね"って何だよ、拓ボン!」と突っ込みを入れても、その流れるようなメロディといったら、団塊世代が眉間に皺を寄せて浸っていてもまるで疑問には思わないし、「"関さん"って誰だよ!?」と思うが早いか、ギターの侘しさがいっさいがっさいを飲み込んで、フォークの世界へと誘い入れてしまう。「ギョーカイってやつは訳のわからん言葉が当たり前に使われるんだなぁ」なんて感じるのは、ブックレットを見た時か、聞いてしばらくおいてからだ。
特筆すべき点はまだある。プロデュースは破天荒なアルバムを数多く世に出した三上寛だし、さらに驚くのは、世界の坂本龍一が大半の曲を編曲している上、ここまでバックバンドというくくりで流してきたが、実はティン・パン・アレイ周辺の、最早レジェンドと言っていいくらいの人達なのだ。演技でも音楽でも、どこまで大物を喰えば気が済むのだろうか。
ピラニアがそろいも揃って極端な自虐を晒しているこのアルバムは全然売れてないと思うんだが、音楽の世界でも片隅という定位置をキープし、相も変わらずギラギラと光り、プロの作品よりも強烈な匂いをまき散らしている。それも痛いほどに。人生の指針となったアルバムを思い出まじりに書くのも全然アリだと思うけれど、そこへ乗り出すにはケツに喰らいつくピラニアを成仏させないとどうにもねぇ…。
written by taiki
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