button『EYE ON PRECIOUSNESS』
@ Akasaka Graffiti (25th Nov '04 )

隣の人から始めよう


「EYE ON PRECIOUSNESS」。大事なことに目を向けよう、という主旨のタイトルのついたイヴェントに行った。ヒートウェイヴの山口洋、細海魚、そして写真家のトシ風間による写真と音楽のコラボレーションイヴェントだ。楽しかった。話の内容やテーマを考えれば、「楽しい」という表現に違和感を感じる人もいるかもしれない。でも、風間さんの話は楽しかった。引き込まれた。

 トシ風間さんは写真家だ。私はこのイヴェントに参加するまで風間さんのことを知らなかった。分かっていたのはヒートウェイヴのHP(こちらのニュース)を見て、ヒートウェイヴのCDジャケット(『NO FER』『日々なる直感』)を撮影したこと、アメリカ在住で、ライフワークとしてアメリカの10代の死刑囚の写真を撮っていること、それくらいだった。

 イヴェントの内容は、風間さんの写真の展示&講演と、スライドに山口さんと細海さんが音楽をつけるライヴ。私の最初の目的は当然、「ヒートウェイヴ山口洋」だったわけで、正直「講演かぁ_。いかにも革命派みたいな、激しく説教するような人が出てきたらいやだなぁ。」と思っていた。

山口洋  山口さんに紹介されてステージに上がった風間さんは、小柄で痩せていて、とても優しそうな人だった。話す口調は静かで穏やか。たくさんの時間をかけて撮り続けた死刑囚、その家族、事件現場、死刑囚を収容している刑務所、死刑執行室など。それらの写真をスライドで見せながら語られるのは、いろいろな人たちとの触れ合いの中で風間さんが感じたこと、分かったこと、そして事実。これらが淡々と静かに伝えられていく。「(ずっとアメリカに住んでいるから)日本語があまり上手くない」という風間さんだが、どんなに流暢で雄弁に語られる言葉より何倍も引きつけられる。そこには、あなた方もこうしなければいけない、とか、もっとこうすべきだ、といったような押し付けがましい言葉はいっさい出てこない。だからこそ、なんの反発もなく耳に、心に入ってくるのだろう。自分で「私だったら何ができるんだろう」ということを考えるようになる。

 風間さんの写真に写っているものは、大げさな脚色も演出もない、あるがままの姿だ。フレームの中で笑ったり、ポーズをとったりしている死刑囚は、風間さんが話の中で何度も「普通の子でしょ?」という通りの若者たちだ。死刑執行室の写真は怖い。最初にどこかのHPで見たとき、怖くて怖くて最後まで見られなかった。なぜ、ただの写真がそんなに怖いのか、その時は理解できなかった。真夜中にひとりで見たのがよくなかったかな? なんて思っていた。今ならその理由がわかる。怖くて当たり前だ。だって、それは人を殺す、--たくさんの人を殺し、今も殺し続けている-- 道具を写したものなのだから。

 風間さんの写真とお話を通じて、特に印象に残ったこと。私たち自身の意志で死刑も戦争も起っていること。暴力や犯罪を憎んでも、人は憎んではいけないということ。被害者はまた被害者になる。犯人を憎み、処刑することを考えるより、被害者の人たちを助けることを考えて欲しい。そして、なぜその犯罪が起きたのか、どうしたらそのようなことが起らなくなるのかを加害者から学ぶことができるということ。それから『愛』。

 風間さんが知りあった死刑囚の子達は、家族や友人からの愛情に恵まれていない子が多いと話してくれた。もしも、本気で彼らに愛情を傾けてくれる人がいて、弁護士を見つけて弁護してくれたら死刑にはならなかったかもしれない(実際、弁護士がついて、えん罪が証明された少年もいるという。必死で弁護士を探したお姉さんの愛が彼を救った)。もしも、誰かから深い愛情を注がれた記憶があったら、こんなことはしなかったかもしれないのに。

山口洋  大事なのは愛なんだ。

 みんなが今より少しだけ優しくなれたら、周りの人の身になって行動できるようになったら。そうしたら世界ももう少し良くなるのかもしれない。そんなに簡単なことではないかな。でも、人に優しくありたいと思い、それを少しづつでも実行しながら生きるのは悪くないと思う。

 ここで風間さんが話してくれたことすべてを紹介するのはとても無理だ。ぜひ、実際に彼の写真を見て、話しを聞きに行って欲しい。たくさん大事なものが伝わってくるから。と、いいつつ、ニューヨーク在住の風間さんが今度いつ日本に来て、どこで講演をやってくれるか私はまったく把握できていない。すいません。でも、少しでも興味を持ってくれた人は彼の名前を覚えて、機会を見つけて講演に足を運んで欲しい。

 イヴェント終了後、風間さんと少しお話しをすることができた。まったくの個人で活動こういった活動をしているという風間さんに、自分が何が出来るのかわからなかった私は自分の気持ちをぶつけてみた。

「何かおかしいな、とか理不尽だなと思うことがあっても、なかなかアクションを起こせない。『ひとりで騒いでもな_』って思っちゃうじゃないですか」。

返ってきた答えはこうだった。

「隣の人から始めればいいんじゃない」。

自分の隣にいる人、近くにいる人の立場になって考えて行動する。

「自分がもしこの人だったら、って思ったら優しく出来るじゃない」。

目が覚めたような気がした。あぁ、そうか。それなら私にも出来る。

 それからもうひとつ。自分に出来ることがあった。風間さんは写真家だから、写真をとって自分の伝えたいことを表現する。山口さんは音楽でそれを表す。それなら、私はライターだから、こういう素晴らしいイヴェントがあったこと、トシ風間さんという素敵な写真家がいるということを文章にして伝えようと思った。どれだけの人がこれを読んでいるかわからないし、どれだけ伝わっているかもわからない。だけど、ほんの少しでも何かを感じてくれる人がいれば、それはとてもうれしいことだと思う。

 このイヴェントを企画し、トシ風間さんの存在を教えてくれた山口洋さんに感謝。


written by wacchy

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