button偶然出会った彼女

 この話は、つい先日某有名CDショップのポイントカードが満点になったことから始まる。「JUDEの新譜と引き換えようか?それとも前から欲しかったバンバンバザールにしようか?」と悩んでいた。何しろ満点になったのは初めてのこと(いつもは1000円分くらいまで貯めるのが精一杯。中古の方が安いのでついついそっちを買ってしまう)なのでかなりウキウキしていた。

 そんな中、ふと邦楽の「は」の棚を眺めていると『バナナ・ボート』と書かれたCDが目に入った。その横には『カリプソ娘』というCDもある。浜村美智子という歌手のアルバムらしい。なんとなく手にしてみると、目力がやたら強い美人な女性が写っている。しかも上半身裸でうつぶせに寝ている(!)かなり年代を感じる写真で「当時は人気あったろうなぁ」なんて考えながら収録曲に目をやるとロックン・ロールの偉人エルビス・プレスリーの大ヒット曲"監獄ロック"がクレジットされている。その頃にはJUDEやらバンバンバザールやらは思考の枠内には存在しておらず、もう浜村美智子への興味しかなくなっていた。

 ライナーノーツによると「デーオ!」の掛け声で始まる"バナナボート"の日本語カヴァーで1957年にデビューした彼女は、やはり当時爆発的な人気だったらしく、元々は今でいうグラビアアイドルのような仕事をしていて火が付いたとのこと。そこからビクターが歌手としてデビューさせたらしいが、かなりの歌声だ。声量だってしっかりしているし、少しハスキーな低い声がまたいい(デビュー以前にテレビ番組の素人歌謡ショーで選外佳作を獲得したり、キャバレーやらナイト・クラブで歌らしいが)。現代のちょっと売れ出したタレントが下手にもかかわらず歌うくだらない曲なんか足元にも及ばない。

 当時の歌謡曲に詳しいわけでもないし、ましてや批評する程の知識なんか持っているわけでもないんだが、とりあえず言えるのはかっこいいっていうこと。"バナナボート"や同収録の"カリプソ娘"、日劇ウエスタンカーニバルのロカビリーブームに乗ったいう"監獄ロック"も全然古臭くない。プレスリーが「The warden threw a party in the country jail〜」と歌い始めるくだりを「閉じ込められた青春の 鬱憤晴らせよ思い切り〜」という日本語訳で歌いあげる彼女の声は男勝りにカッコイイ。中盤では元の英語の歌詞を歌うんだが、声の雰囲気なんかもバッチリだ。

 人気絶頂の当時には渡米し、テレビ出演やRCAビクターでレコーディングを行い「ジャパニーズ・ティーン・クイーン」という称号をもらったという。その称号がどれだけすごいかはさておき、NHKの大晦日恒例番組「紅白歌合戦」に出場した際に"監獄ロック"を歌ったという事実にはさすがに驚いた。当時あの歌詞はどう受け止められたのだろうか……。以前編集長のhanasanが執筆した小林旭についての原稿にもあったが、昔の音楽シーンのすごさには本当に圧倒されてしまう。経済成長のめまぐるしさに追われた生活の中で、ラジオやレコードから流れてくる生活に密着しつつも華のあるスターの歌声に対する憧れは、今よりも遥かに大きいものだったに違いない。

 今年で21になる僕が生まれるはるか昔に、素晴らしい音楽が日本にもたくさんあったことが残念でならない。これは昔の素晴らしい音楽に触れるといつも思うことだが、リアルタイムでその音楽を経験してみたかった。その度に「これからも素晴らしい音楽はたくさん生まれるだろうからおあいこなんだ」と自分を納得させるのであった。

buttontaisuke's column :

button偶然出会った彼女 (04/10/04)

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浜村美智子

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関連サイト

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このアルバムを聴きなさい!
浜村美智子

"カリプソ娘"
こちらは25曲入り!

このアルバムを聴きなさい!
浜村美智子

"東京ビートニクス (1)"(16曲compilation)
浜村美智子の曲、トンテンカンロックが収録されているですが、そのほかにも雪村いづみの「火の玉ロック」やフランク永井の「16トーン」など、名曲そろい。いいよ。そのほか浜村美智子が収録された面白いコンピレーションとしては
"東京ビートニクス (2)"
"東京ビート・アンソロジー Vol.1 〜Rock’n Days 1956-1962"
"魅惑のニュー・リズム"などがあります。

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